インボイス制度とは
2023年に導入が決定している制度です。ちまたでは、個人事業主を殺しにきてるだの、仕事がなくなるだの言われていますが、いったんちゃんとした知識を身につけてから考えてみましょう。
そもそも何なのか、というと、消費税に大きく関わる制度です。中身を説明する前に、まず消費税とはなんぞや、というところから入っていきましょう。
そもそも消費税とは
1989年、竹中内閣当時に、3%で始まった消費税。モノを買う、サービスを享受する、業務を委託する、などなど、いったい何を消費しているのかわからないものに対しても、消費税が課されています。おそらく、一般的な日本国民にとって、一番身近でなじみのある税だと思われます。
1989年は3%、1997年に5%、2014年に8%、来る2019年10月に10%に上がることが予定されていますが、一部食料品などは8%据え置き(軽減税率措置)となる予定です。食料品は、外食との絡みもあって、少々めんどくさい話になりそうですね。
消費税というお金の流れ
この節では、税率は2019年9月現在の8%で考えます。
まずは、物を買う人(消費者)の立場から見てみましょう。
買う場合
たとえば、小売店…コンビニを例に取ってみましょう。
コンビニで定価1000円の物を買ったとします。税込み1080円を支払いました。うち、80円が消費税となります。あなたは80円の消費税を払いました。
おしまい。
このように、消費者の立場で言えば非常に簡潔です。80円を支払っただけで話が済みます。では、その80円を別の視点から見てみましょう。
売る場合
同様にコンビニを例に取ってみましょう。
コンビニで定価1000円の物を売りました。税込み1080円を受け取りました。うち80円が消費税です。これは、預かり金であることを、いったん念頭に置いておいてください。
この定価1000円の物は、当たり前ですが、そもそも仕入れ業者から買わなければなりません。この仕入れ業者は、700円で売っていたとします。税込み756円です。うち56円が消費税になります。
お客さまから預かった消費税80円のうち、仕入れ業者に56円支払っています。結果残った消費税は80円から56円を差し引いて、24円です。
この24円が、最終的に国に納める消費税になります。つまり、売っている側は、預かった消費税から支払った消費税を差し引いた額を国に納める、というシステムになっています。回りくどいお金の動きになりますが、非常に重要です。
免税事業者と適格請求書
あまり耳にしない単語がいきなり出てきました。ですが、これもとても大切です。
免税事業者というのは、国から「あなたの会社は消費税を納めなくてもいいですよ」と許可されている事業者です。条件をざっくりと言えば…
- 当該年の前々年の課税売上高が判定基準
- その課税売上高が1000万円未満
である事業者が該当します。このような事業者は、請求時に消費税を請求しておきながら、国に納めず自社の懐におさめて良いことになっています。いわゆる益税です。条件が前々年の課税売上高ですので、事業立ち上げ年度とその翌年は、自動的に免税事業者に該当します。3年目以降は前々年の課税売上高で振り分けられます。そして、多くの中小企業や事業者、多くの個人事業主が該当していると思われます。売上高1000万円を計上するには、月の売り上げは最低でも84万円です。そう簡単なことではありません。日々の運送で売り上げを出している軽貨物運送事業者でいえば、月25日稼働で、毎日34000円の売り上げが必要です。
で、この免税事業者、今後インボイス制度が始まると困ったことになります。
というのは、先ほどのように80円預かって56円払ったので差額の24円を納めます、ということができなくなるからです。
インボイス制度導入後は、一般的な請求書に記載されている消費税は、「仕入れ業者に払ったのにも関わらず、払ったことにならない」ということになります。おかしな話ですね。というのも、「仕入れ業者に消費税を払ったことを証明するには、適格請求書が必要であり、それ以外の請求書では消費税を払ったことを認めない」となるからです。ということは、仕入れ業者がみんなで適格請求書を出せば良いじゃない、という話になりそうですが、残念ながら「免税事業者では適格請求書を発行できない」というルールがあります。
ということは、課税売上高1000万円以下の免税事業者から請求書が来るケースと、課税事業者から適格請求書が来るケース、発注者からすればどちらにお願いするべきか、という話になります。発注者からすれば、当然課税事業者に発注する方がお得です。なぜなら、免税事業者に消費税を払っても、国からは払ったことを認められないので、再度同額を国に納める必要があるからです。消費税が2重取りされてしまいます。
1000円の物を売りました。お客さまから1100円(インボイス制度導入時点での想定消費税率10%)受け取りました。
- 課税事業者から適格請求書がきたケース
- 税抜き700円、税込み770円(消費税率10%)を仕入れ業者に払いました。適格請求書から70円は払ったことの証明となり、その差額の30円を国に納めます。
- 免税事業者から、従来の請求書がきたケース
- 税抜き700円、税込み770円(消費税率10%)を仕入れ業者に払いました。国からすれば適格請求書ではないため、消費税分の70円は払ってないと見なされ、100円を国に納めなければなりません。合計170円の納税となります。
個人事業主の今後
では、課税売上高1000万円未満の免税事業者はどうすれば良いのか。方法はいくつかあるとは思いますが…
- 課税売上高が足りないけど課税事業者として登録する
- 課税売上高が1000万円を超えるように頑張る
- 免税事業者であっても、「この人じゃなきゃダメだ」という存在になる
というのが現実的なところです。課税事業者として登録してしまえば、適格請求書が発行できます。ただし、課税売上高500万円くらいの事業者からすれば、その10%にあたる50万円を納める必要があり、これは相当な痛手です(まぁ、預かってる消費税はちゃんと納めろよ、という話ですが)。
インボイス制度開始が2023年ですので、その前々年、2021年の課税売上高が1000万円を超えれば自動的に課税事業者として登録されます。そこを目指すのが、個人事業主としては、明るい未来ということになりそうです。
また、3番目の案ですが、特筆すべきスキルを保持していて、免税事業者とか関係なく、「この人が書くプログラムじゃないとダメ」「この人の絵じゃないとダメ」みたいな存在になれれば、注文がくるのではという淡い期待です。
実際のところ、免税事業者のままでいると、インボイス制度開始以降は、残念ながら仕事が減ることが、容易に予想できてしまいます。ちまたで囁かれている噂は事実ではあります。が、インボイス制度という単語だけが一人歩きしてしまっていて、なかなか詳細な情報や知識が出回っていないのも事実です。まずは、一人歩きしている単語に振り回されることのないよう、気をつけたいところです。
最後に
これだけ語っておきながら、「一般人がちょっと調べた知識です」という範疇からは抜け出せていません。十分に気をつけてはいますが、間違っているところがあるかもしれません。事業主さまであれば、お世話になっている税理士さんがいらっしゃると思いますので、その方にちゃんとご相談することを強くお勧めします。
あ、もちろん自分も免税事業者ですが、どうするかまだ考えられていません。が、最終的には稼ぎを増やす方向で考えると思います。。。
そして、インボイス制度には、一応経過措置があります。導入から3年間…2023年から2025年までは80%が、以降3年間2026年から2028年までは50%が、免税事業者からの請求書であっても払ったことと見なされ、差額の20%ないし50%を納税することになります。現場は混乱しそうです…。